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東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)348号 判決 1982年10月21日

原告

松井英明

井口美智子

藤田登

右三名訴訟代理人

小川信明

友野喜一

被告

東京都知事

鈴木俊一

右指定代理人

青木隆蔵

外一名

主文

一  被告が昭和四三年五月一一日付けで原告らに対してした東京都豊島区池袋二丁目八五四番一の土地について同区西池袋一丁目二七番一、同区西池袋二丁目三八番四及び同番一〇の各土地を換地とする旨の換地処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

主文同旨

二  被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  東京都市計画第一〇地区復興土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の第二工区内にある東京都豊島区池袋二丁目八五四番宅地239.82坪(以下「本件分筆前従前地」という。)について、原告松井英明及び原告藤田登は昭和三二年一二月、原告井口美智子は同三七年一二月それぞれ共有持分権(持分は、原告松井が二三九八分の二〇九、原告藤田が二三九八分の六五、原告井口が二三九八分の二五である。)を取得し、その旨の登記を経由した。

(二)  被告は、昭和三四年一〇月二二日付けで、本件分筆前従前地について仮換地指定処分(以下「本件仮換地指定処分」という。)をした。

(三)  本件分筆前従前地について二分の一の共有持分を有していた小林直毅(以下「小林」という。)は、昭和三八年に至り、原告三名を含むその余の共有者を相手方として、共有物分割請求の訴えを提起し、同四二年三月二五日、本件分筆前従前地をほぼ東西に走る直線で二等分し、その南側部分を小林の所有とし、北側部分を原告三名、許禎祥、梅田粂三郎、松永モト及び株式会社ダイアナ靴店の七名(以下「原告ら共有者」という。)の共有とする旨の判決(以下「本件分割判決」という。)が言渡された。

そして、本件分筆前従前地について本件分割判決に従つて昭和四二年九月三〇日分筆登記及び同年一一月二〇日持分移転登記がなされ、北側の東京都豊島区池袋二丁目八五四番一宅地396.39平方メートルが原告ら共有者の共有地とされ、南側の同番二宅地396.42平方メートルが小林の所有地とされた。

(四)  更に、昭和四三年二月一五日、右の東京都豊島区池袋二丁目八五四番一宅地396.39平方メートルを同番一宅地367.59平方メートル(以下「本件分筆後従前地(一)」という。)及び同番四宅地28.76平方メートル(以下「本件分筆後従前地(四)」という。)に、同番二宅地396.42平方メートルを同番二宅地266.10平方メートル(以下「本件分筆後従前地(二)」という。)及び同番三宅地130.30平方メートル(以下「本件分筆後従前地(三)」という。)にそれぞれ分筆する分筆登記がなされた。

(五)  本件事業の施行者である被告は、昭和四三年五月一一日付けで、原告ら共有者に対して本件分筆後従前地(一)について東京都豊島区西池袋一丁目二七番一宅地170.28平方メートル(以下「本件換地(甲)の(一)」という。)、同区西池袋二丁目三八番一〇宅地134.14平方メートル(以下「本件換地(乙)の(一)」という。)及び同番四宅地62.84平方メートル(以下「本件換地(丙)の(一)」という。)の三筆合計367.26平方メートルの宅地(以下「本件換地(一)」という。)を換地とする旨の換地処分をし、小林に対して本件分筆後従前地(二)について同区西池袋一丁目二七番二宅地123.23平方メートル(以下「本件換地(甲)の(二)」という。)、同区西池袋二丁目三八番九宅地97.12平方メートル(以下「本件換地(乙)の(二)」という。)及び同番三宅地46.31平方メートル(以下「本件換地(丙)の(二)」という。)の三筆合計266.66平方メートルの宅地を換地とする旨の換地処分をした(以下右各換地処分を併せて「本件換地処分」という。)。なお、原告ら共有者の本件分筆後従前地(四)及び小林の本件分筆後従前地(三)については、換地を交付せず金銭で清算する処分(以下「特別処分」という。)がなされた。

2  本件換地処分は、以下に述べる理由により違法である。

(一) 仮換地指定処分がされた後に従前の宅地(以下「従前地」という。)について共有物分割がされた場合において、土地区画整理事業の施行者は、分割当事者から仮換地指定の変更の申立てがされたときは、これに応じて仮換地指定変更処分をしなければならないものであり、その際分割当事者間で分割後の従前地に対する仮換地の部分を定めた合意が成立していても、施行者は必ずしもこれに拘束されるものではなく、したがつて、右合意が成立していない場合においても、施行者は仮換地指定変更処分をしなければならないものである。

そして、本件において、原告ら共有者は、昭和四二年八月一九日付けで、東京都北部区画整理事務所長あてに、従前地の共有物分割に伴う仮換地指定の変更について、分割当事者間で合意ができないので特別の配慮をされたい旨の書面を提出しているところ、これは前記合意が成立しない場合における仮換地指定の変更の申立てであることが明らかであるから、被告は、仮換地指定変更処分をすべきであつたのに、これをしないでいきなり本件換地処分をした。

したがつて、本件換地処分は、仮換地指定処分がされた後に従前地について共有物分割がされた場合に施行者である被告がとるべき手続に違反してされたものであり、違法である。

(二) 本件分筆後従前地(一)と本件換地(一)とは全く照応していないから、本件換地処分は、土地区画整理法(以下「法」という。)八九条一項に違反し、違法である。

(1) 本件分筆後従前地(一)は、国電池袋駅西口前の繁華な場所に位置する商業地であるところ、本件換地(甲)の(一)は、右従前地とほぼ同一位置にあるが、本件換地(乙)の(一)及び(丙)の(一)は、右従前地から離れたいわゆる場末にあり、トルコ風呂、旅館等に囲まれた環境劣悪な土地であり、商業地としては不適格であり、右従前地と比べてその価値に非常な差異がある。ちなみに、昭和四五年度固定資産台帳の評価によれば、一平方メートル当たり、本件換地(甲)の(一)が約七〇万円であるのに対し、同(乙)の(一)は五万七〇〇〇円、同(丙)の(一)は四万六〇〇〇円にすぎない。そのうえ、本件換地(丙)の(一)は、間口も狭く、鍵形をした土地であり、地積もわずかで、何の用途にも利用できない。

以上のとおり、本件換地(乙)の(一)及び(丙)の(一)は、本件分筆後従前地(一)と照応していない。

(2) 本件換地処分は、利用状況の照応に対する配慮を欠いている。

すなわち、原告ら共有者又はその前主は、昭和二三年ころから、一団となつて本件分筆前従前地を商店経営(原告松井は衣料品店、原告井口及び原告藤田は飲食店)のため現実に利用してきた。これに対し、小林は、本件分筆前従前地を単に賃貸し、賃料収入を得ていただけで、現実に使用したことは一度もなかつた。しかるに、本件換地処分は、原地換地の土地を機械的に二分して本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)とし(甲)の(一)を原告ら共有者に交付し、(甲)の(二)を小林に交付した。これは、原告ら共有者と小林との従前地の利用状況を等しいものとして両者を平等に扱つたものであるが、両者の利用状況は右のとおり異なるものであるから、本件換地処分は利用状況の照応を欠くものとして違法といわざるをえない。そして、また、本件換地処分は、原告ら共有者と小林との間に不公平な結果をもたらすものとして、違法といわなければならない。

更に、本件換地処分は、本件換地(甲)の(一)、(乙)の(一)及び(丙)の(一)という三筆の飛地を交付するものであり、しかも(乙)の(一)及び(丙)の(一)は飛換地であるから、原告ら共有者が一団となつて従前地を利用してきた事実を無視するものとして違法といわなければならない。

ところで、本件分割判決は、本件分筆前従前地の利用状況を十分に勘案し、原告ら共有者が従来から現実に利用してきた部分を原告ら共有者の土地としてとり、小林は、本件分割判決の結果、右土地についての共有権を喪失し、何ら利用、使用できなくなつたのである。そして、本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)は、ほとんど原告ら共有者の右土地に包含されているから、現実の利用状況を尊重するためには、本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)の双方を原告ら共有者に交付すべきであつた。なお、本件分割判決による利用状況の変化は、本件事業の開始後に生じた状況の変化であるが、事業の施行とは無関係なものであるから、照応判断において当然斟酌すべきである。

更に、本件換地処分は、原告藤田の店舗を二分する位置に本件換地(甲)の(一)と(甲)の(二)の境界線を引き、右店舗の一部並びに原告松井及び原告井口の各店舗の全部が現に存する土地を本件換地(甲)の(二)として小林に対する換地とし、原告藤田の店舗の残りの部分及び原告三名を除くその余の共有者四名の店舗が現に存する土地を本件換地(甲)の(一)として原告ら共有者に対する換地としたため、原告三名は、本件換地(甲)の(一)を利用できず、本件換地(乙)の(一)及び(丙)の(一)を指定されたのと同一の状態となつている。したがつて、本件換地処分は、原告三名とその余の共有者四名とを不公平に扱うものというべきである。

以上のとおり、本件換地処分は、利用状況の照応を無視し、小林と原告ら共有者との間の公平及び原告ら共有者相互間の公平を全く考慮に入れずされたものであり、いわゆる横の関係における照応を考慮していないもので、違法である。

ちなみに、このような不公平な結果を避けるためには、被告が本件仮換地指定処分と同様に原告ら共有者及び小林に対して一括して換地を指定するか、又は、前記のような従前地の利用状況を考慮し、原告ら共有者の従前地に対し本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)を換地として交付し、小林の従前地に対し本件換地(乙)の(一)、(乙)の(二)、(丙)の(一)及び(丙)の(二)を換地として交付し、両者間に土地の価格について不均衡が生ずる場合には、法九四条の規定により金銭清算で調整すればよかつたのである。

(三) 本件事業を担当した区画整理事務所と特定の権利者との間には不明朗な関係があり、本件換地処分のほかにも甚だ不可解な換地処分がされていることから考えて、本件換地処分は、不公正なもので違法である。

3  よつて、原告らは、原告らに対する本件換地処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の各事実はいずれも認める。

2(一)  請求原因2の(一)のうち、原告ら共有者が昭和四二年八月一九日付けで東京都北部区画整理事務所長あてに原告ら主張の書面を提出したこと、被告が仮換地指定変更処分をしないで本件換地処分をしたことは認めるが、その主張は争う。

(二)  請求原因2の(二)の(1)のうち、本件分筆後従前地(一)が国電池袋駅西口前の場所に位置する商業地であること、本件換地(甲)の(一)が右従前地とほぼ同一位置にあること、本件換地(乙)の(一)及び(丙)の(一)が右従前地から離れた場所にあること、本件換地(甲)の(一)、(乙)の(一)及び(丙)の(一)の評価額が原告ら主張のとおりであること、本件換地(丙)の(一)が間口が狭く鍵形をした土地であることは認めるが、本件換地(乙)の(一)及び(丙)の(一)がいわゆる場末にあり、トルコ風呂に囲まれた環境劣悪な土地であり、商業地として不適格であることは否認し、その主張は争う。

請求原因2の(二)の(2)のうち、被告が本件換地処分において、原告藤田の店舗を二分する位置に本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)の境界線を引き、右店舗の一部並びに原告松井及び原告井口の各店舗の全部が現に存する土地を小林に対する換地としたこと、原告藤田の店舗の残りの部分及び原告三名を除くその余の共有者四名の店舗が現に存する土地を原告ら共有者に対する換地としたことは認めるが、原告松井が衣料品店、原告藤田及び原告井口が飲食店を営み、原告ら共有者が一団となつて本件分筆前従前地を利用してきたこと、小林がこれを現実に一度も利用したことがなかつたことは不知、その主張は争う。

(三)  請求原因2の(三)の事実は否認し、主張は争う。

三  被告の主張

1  被告が本件換地処分をするに至つた経緯は、次のとおりである。

(一) 被告は、本件事業について昭和二一年一〇月一日施行地区の告示をし、同二三年九月二日設計書を定め、これを告示した。

(二) 被告は、昭和二四年四月四日付けで、本件分筆前従前地のうち私道部分48.12坪について特別処分をし、宅地部分191.70坪についてはほぼ同一位置にある土地を換地予定地(以下「本件換地予定地」という。)とする旨の換地予定指定処分(以下「本件換地予定地指定処分」という。)をした。

(三) 被告は、その後事業の施行につれて、本件換地予定地と隣接換地予定地との間に、両換地予定地からそれぞれ二メートル幅の提供を求めて幅員四メートルの区画街路を設置する必要性を認め、昭和三四年一〇月二二日付けで、本件換地予定地指定処分を取り消し、新たに街廓番号八七の三符号八五四(甲)地積約八八坪(以下「本件仮換地(甲)」という。)、街廓番号一一三符号八五四(乙)地積約六九坪(以下「本件仮換地(乙)」という。)及び街廓番号一一三符号八五四(丙)地積約三三坪(以下「本件仮換地(丙)」という。)の三土地(以下「本件仮換地」という。)を仮換地とする旨の本件仮換地指定処分をしたが、本件仮換地(甲)は、本件換地予定地のうち右区画街路に組み込まれる部分を除いた土地であり、本件仮換地(乙)及び(丙)は、右区画街路に組み込まれる部分の地積に相応するものであつた。

(四) その後、本件分筆前従前地について、本件分割判決が言渡された。本件分筆前従前地の中には東西に走る私道が存したが、本件分割判決は、右の私道の中を東西に走る線で本件分筆前従前地を南北に二分し、南側部分を小林の所有地とし、北側部分を原告ら共有者の共有地とするものである。そして、昭和四二年九月三〇日本件分割判決に従い本件分筆前従前地を南北に二分する分筆登記がなされ、更に、昭和四三年二月一五日それぞれの土地につき宅地部分と私道部分とを区分するための分筆登記がなされ、本件分筆前従前地は本件分筆後従前地(一)ないし(四)に分筆されたが、このうち(一)は原告ら共有者共有の宅地部分、(四)は原告ら共有者共有の私道部分、(二)は小林所有の宅地部分、(四)は小林所有の私道部分である。

(五) 被告は、昭和四三年五月一一日付けで、本件分筆後従前地(一)及び(二)について本件換地処分をするとともに、本件分筆後従前地(三)及び(四)については法九五条六項の規定により特別処分をした。そして、本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)は本件仮換地(甲)を、本件換地(乙)の(一)及び(乙)の(二)は本件仮換地(乙)を、本件換地(丙)の(一)及び(丙)の(二)は本件仮換地(丙)をそれぞれ二分したものである。

2  本件換地処分は、以下に述べるとおり違法である。

(一) 請求原因2の(一)に対して

東京都市計画復興土地区画整理事業施行規程二六条は、「法百三条第四項の公告前において、仮換地または換地の一部に該当する従前の土地について、所有権の移転または地上権若しくは賃借権の設定の登記をした者は、前権利者と連署(従前の土地全部について分割して二人以上の者が権利を取得したときは、取得した者の全員の連署で足りる。)し、従前の土地に対する仮換地または換地の部分を定めて届け出なければならない。」と規定しているから、被告としては、従前地について共有物分割がされた場合、分割当事者全員による右届出をまつて仮換地指定変更処分をすべきであるところ、本件において原告ら共有者が提出した原告ら主張の書面は右届出に該当せず、結局右届出がなかつたのであるから、仮換地指定変更処分をする必要がなかつたものである。

また、仮換地指定(変更)処分は、工事のため必要がある場合又は換地処分を行うため必要がある場合に行うものであり(法九八条一項)、仮換地指定(変更)処分を行わなければ換地処分を行えないものではないところ、原告ら主張の書面が提出された時点では既に本件施行地区全体の工事が完了し、換地処分を行う内部的手続もほぼ完了して、間もなく換地処分を行うことが予定されていたのであるから、このような事情のもとでは、本件換地処分と同一内容となる仮換地指定変更処分を省略して、直ちに本件換地処分を行つたことに違法はない。

(二) 請求原因2の(二)に対して

(1) 本件換地処分における照応は、本件分筆後従前地(一)と本件換地(一)とについて判断すべきではなく、本件分筆前従前地と本件仮換地とについて判断すべきである。

すなわち、照応判断をする場合、従前地の状況については当該土地区画整理事業開始当時を基準時とすべきところ、本件事業開始当時(昭和二一年一〇月一日施行地区告示当時)の従前地は未だ分割、分筆されていなかつた本件分筆前従前地である。

そして、分割、分筆される前の本件分筆前従前地に対応するものは、本件仮換地である。すなわち、本件仮換地指定処分は、換地設計にのつとつて将来指定されるべき換地の位置、範囲を仮に指定して、従前地の権利者をして実質上換地処分がされたのと同様の効果を得させるためにされる、いわゆる本換地予定的仮換地指定処分である。したがつて、本件仮換地は、将来換地処分がされるとそのまま換地となるべきもので、実質的には換地と同一であるから、本件換地処分における照応は、本件分筆前従前地と本件仮換地とについて判断すれば足りるものである。

もつとも、本件換地処分は、本件仮換地指定処分を変更する内容になつているが、それは、本件換地処分の直前に本件分筆前従前地が分割、分筆されたため、本件仮換地をそのまま換地として指定することができなくなつたことに伴い、本件仮換地のそれぞれについて本件分筆後従前地(一)及び(二)に対応する部分を特定して換地としたものにすぎず、本件換地(一)及び(二)は、実質的には本件仮換地と同一とみることができる。

(2) 本換地予定的仮換地指定処分がされた後に共有物である従前地について分割、分筆がされた場合の換地処分は、共有物分割が従前地の共有者間における権利関係の内部的変更にすぎないこと、既に仮換地上に換地と同じ効果を得て現に使用収益している多数の権利者への影響を避けるべきであることなどから、当該従前地の仮換地として指定された土地の範囲内で右分割、分筆に対応して行うことにならざるをえない。殊に、本件のように施行地区全体について仮換地が指定され、事業が進行し、間もなく換地処分が行われようとしている段階において、その中の一筆の従前地が共有物分割され、分筆されたからといつて、そのために施行地区全体の換地手続をやり直すことは到底不可能なことであるから、施行地区全体との関係で個々の土地の照応を要請する法八九条一項を本件に適用することは無理である。

したがつて、本件分筆前従前地と本件仮換地との間の照応以外に本件換地処分の適否について残る問題は、本件仮換地の範囲内で本件分筆前従前地に引かれた分割線に相似し、かつ、分割当事者間の公平を配慮して、いかに合理的な分割線を引くかという、いわば従前地と換地との権利関係の整合の問題であり、このことは照応判断とは次元を異にするものである。

(3)(ア) 本件分筆前従前地と本件仮換地とは、次に述べるとおり照応している。

本件分筆前従前地は国電池袋駅西口前の商業地であるところ、本件仮換地はいずれも商業地域にあり、本件仮換地(甲)は、同駅西口前の繁華街に位置し、幅員四メートルの区画街路の設置により宅地としての利用の増進は著しい。本件仮換地(乙)及び(丙)は、同(甲)から直線距離で約四四〇メートル、徒歩で五、六分の場所に位置し、場末ではなく、また、付近には旅館、商店等が建ち並んでいるが、トルコ風呂は存在しない。そして、本件仮換地(乙)は、北側で幅員一八メートルの道路に接し、建物建築ではその利用価値は大きい。また、本件仮換地(丙)は、鍵形の土地ではあるが、東側で幅員六メートルの公道に4.72メートル接しており、一宅地としての利用は充分可能である。したがつて、本件仮換地(乙)及び(丙)も同(甲)と同様に本件分筆前従前地とほぼ同様の利用状況及び環境条件にある。次に減歩についてみると、本件施行地区内の平均減歩率は約二七パーセント、池袋駅西口付近の減歩率は三五ないし三六パーセントであるのに対し、本件仮換地については減歩がない。しかも、同駅西口前に仮換地の主要部分(本件仮換地(甲))が指定されている。

以上のとおり、照応判断の諸要素を総合的に検討すれば、本件分筆前従前地と本件仮換地とは大体同一条件にあり、照応に欠けるところはない。

(イ) 仮に、本件仮換地(乙)及び(丙)が本件分筆前従前地と照応していないとしても、右仮換地は、次に述べるとおり原告らの了解を得たうえで指定されたものであるから、原告らのこの点についての違法の主張は失当である。

本件分筆前従前地と隣接従前地(八五三番一)との境界上に通行路があつたため、本件換地予定地と右隣接従前地に対する換地予定地との境界上にも私道を設置することとしたが、これについて原告らを含む当時の右各換地予定地上の建物所有者、居住者及び右各従前地の所有者らから防火、防災上道路を確保するため右私道部分を公道(区画街路)として設置してほしい旨の要望が出されたので、被告としてもその必要性を認め、両換地予定地からそれぞれ二メートル幅の土地の提供を求めて右区画街路を設置することとしたが、これにより本件換地予定地の地積が右区画街路に組み込まれる部分だけ減少し、減歩率が約三六パーセントから約五三パーセントとなり、付近の平均減歩率をはるかに上回ることとなつた。しかし、当時既に本件施行地区全体について仮換地の指定はもとより仮換地上への建物等の移転も大半が完了していたため、他の権利者に影響を及ぼすような仮換地指定の変更はできないので、東京都が本件事業開始以前から所有していた土地に対する仮換地で原告らを含む関係権利者が了解した本件仮換地(乙)及び(丙)を右区画街路に組み込まれる部分に相応する仮換地として指定したものである。

(4) 本件換地処分は、本件仮換地の範囲内で最も合理的な分割線を引いてされたものであるから、適法である。

すなわち、本件分筆前従前地は、本件分割判決により土地のほぼ中央を東西に走る線で南北に二分する形で分割された。本件仮換地のそれぞれについて、本件分割判決における本件分筆前従前地の分割線に相似する線、すなわち、前面道路に直角に、かつ、ほぼ二分の一の割合に分割する線を引き、しかも、それによつて三個の仮換地が六個の土地に細分されても、どの土地も公道に接し、かつ、一宅地として利用可能な土地になるようにするとすれば、本件各換地処分以外に分割当事者間の公平を図りつつ、最も合理的な換地を指定する方法は存しない。

(5)(ア) 本件において従前地と換地との照応を判断しなければならないとしても、本件換地(丙)の(一)の公道との接地部分が二メートル余りであるほかは、位置、利用状況、環境及び減歩等について前記(3)の(ア)記載のとおりであるから、本件分筆後従前地(一)と本件換地(一)とは照応している。

(イ) 仮に、本件分筆後従前地(一)と本件換地(一)とが照応していないとしても、本件においては、原告ら関係権利者の要望によつて区画街路を設置することとし、その了解を得たうえで本件仮換地指定処分がされたこと、本件換地処分は本件仮換地の範囲内で行わなければならないという制約が存したこと、換地処分がされる直前に本件分筆前従前地が共有物分割され、分筆されたのにかかわらず、分割当事者から従前地に対する仮換地の部分を定めた届出がなかつたことなど既述の事情のもとでは、本件換地処分以外に合理的な換地を指定する方法が存しないから、同処分は違法でない。

(6) 請求原因2の(二)の(2)に対する反論

(ア) 照応判断の一要素である利用状況とは、当該土地区画整理事業開始当時における従前地の利用状況であるところ、原告ら共有者が現実に共有し、利用してきたのは、本件換地予定地ないし本件仮換地(甲)であつて、本件分筆前従前地ではない。

原告ら共有者は、本件分筆前従前地を利用したことはないから、本件換地処分で考慮すべき利用状況は具体的に存在しない。原告らの主張する利用状況は本件換地予定地ないし本件仮換地のそれであつて、これを本件換地処分で考慮することはできない。また、土地の利用状況とは客観的な土地の利用状況をいうものであり、誰が利用しているかによつて左右されるものではないから、仮に原告ら共有者が本件分筆前従前地を現在と同様の状況で利用しており、換地処分をするに当たりこれを考慮すべきであるとしても、小林は右従前地の共有者の一人として原告ら共有者と同様の利用状況にある土地を所有していたのであるから、土地の利用状況について原告ら共有者と小林とを区別する理由はない。

そして、本件分割判決は、当事者の意思に従い、原告ら共有者と小林の持分の割合に応じて、本件分筆前従前地を図面上二分したにとどまるものであり、右従前地の利用状況を勘案してされたものではない。

なお、照応判断において例外として土地区画整理事業の施行以外の事情による従前地の利用状況の変化が考慮されるべきであるとしても、それは、事業開始時から本換地予定的仮換地指定処分時までに発生した事情で、その時点で現存する従前地自体の利用状況の変化をいうものであるところ、本件においては、右にいう従前地の利用状況の変化は起こつておらず、原告らのこの点に関する主張は、本件仮換地の利用状況の変化をいうにすぎず、失当である。

(イ) 本件換地処分は、原告ら共有者全員に対してされたものであつて、原告らとその余の共有者とを区別しておらず、原告らに対して本件換地(乙)の(一)及び(丙)の(一)のみを換地として指定したものではなく、三筆の本件換地(一)をどのように利用するかは、原告ら共有者間の協議によるべきものであつて、本件換地処分とは無関係である。

(ウ) 本件分筆前従前地は、本件換地処分がされる前に既に分割、分筆されて権利者を異にする二筆の土地になつていたから、右各土地について換地を一括して指定することはできない。

また、原告ら共有者の従前地と小林の従前地とは、共有物分割前は一筆で駅前に位置する同一条件の土地であつたから、前者に対し、駅前の二筆の土地を換地として交付し、後者に対しその余の四筆の土地を換地として交付することは、照応判断の一要素である位置の関係で両者を不当に差別することになり、照応の原則の趣旨とする公平に反するものである。また、法九四条の金銭清算の規定は、照応の原則に適合した換地が定められた場合において、なお不均衡が生ずると認められるときに初めて適用されるものであり、照応を無視して金銭清算で処理することは法の趣旨に反する。

四  被告の主張に対する認否

1(一)  被告の主張1の(一)及び(二)の事実はいずれも不知。

(二)  同1の(三)のうち、被告が昭和三四年一〇月二二日付けで本件換地予定地指定処分を取り消し、新たに本件仮換地指定処分をしたことは認めるが、その余の事実は不知。

(三)  同1の(四)のうち、本件分割判決及び分筆登記がなされ、本件分筆前従前地が本件分筆後従前地(一)ないし(四)に分筆され、そのうち(一)及び(四)が原告ら共有者のもの、(二)及び(三)が小林のものであることは認めるが、その余の事実は不知。

(四)  同1の(五)の事実は認める。

2  被告の主張2はいずれも争う。

五  原告らの反論

1  本件仮換地指定処分と本件換地処分とでは、処分の対象となつた従前地も、指定された土地(仮換地、換地)も、処分の相手方である権利者も異なるものであり、本件仮換地指定処分は到底本換地予定的仮換地指定処分とはいえず、本件仮換地と本件換地(一)及び(二)とは、形式的にも実質的にも同一性が認められない。

したがつて、被告の照応に関する主張は前提を欠くもので失当であり、本件分筆前従前地が共有物分割され分筆された以上、本件分筆後従前地(一)と本件換地(一)との照応があらためて問題とされなければならない。

2  仮に、本件換地処分の適否について、本件仮換地の範囲内でいかに合理的な分割線を引くかということが問題となるとしても、請求原因2の(二)に述べたところと同様の理由により、本件換地処分により引かれた分割線には合理性が認められない。

3  本件換地処分の照応違反、合理性の欠如という違法性のよつてくるゆえんは、被告において、従前地の利用状況を十分に勘案してされた本件分割判決の内容を考慮に入れず、本件仮換地(甲)、(乙)及び(丙)をそれぞれ機械的に二分したことにある。

第三  証拠関係<省略>

理由

一1  請求原因1の各事実及び被告の主張1の(五)の事実は、当事者間に争いがない。

そして、<証拠>を総合すると、本件換地処分に至る経緯について、被告の主張1の(一)ないし(三)の各事実及び次の事実が認められる。

(一)  昭和二四年四月四日付けの本件換地予定地指定処分は、本件分筆前従前地(別紙第一図の破線で囲まれた土地)の所有者岸野政治(以下「岸野」という。)及び借地人蔡枝元(以下「蔡」という。)に対し本件換地予定地(別紙第一図の太実線で囲まれた土地)を指定したものである。蔡は、同二二年一一月一八日、岸野との間で本件分筆前従前地を買い受ける旨の売買契約を締結し、その引渡しを受けたが、代金が未済であつたため、同月二五日、被告に対し借地権の申告をした。ところが、須藤理助(以下「須藤」という。)は、罹災都市借地借家臨時処理法による借地権の取得を理由に、同二三年一月二二日、岸野に対し、本件分筆前従前地の占有移転禁止仮処分を執行した。そこで、蔡は、同年、急きよ、本件分筆前従前地のほぼ本件換地予定地に相当する部分に店舗用の建物を建て、貸店舗として数名の者に賃貸した。原告ら共有者(ただし、株式会社ダイアナ靴店については、その前主の井口劉一)は、同三七年までに右建物を蔡から直接買い受けるか、あるいは蔡から買い受けた者から買い受けたものであり、いずれも右建物を店舗として使用し、かつ、本件換地予定地指定処分及び本件仮換地指定処分の前後を通じて本件換地予定地に相当する部分の土地全体を右建物の敷地及び私道として使用していた。一方、岸野は、蔡が右占有移転禁止仮処分を理由に売買代金を完済しなかつたため、同二四年五月、蔡との本件分筆前従前地の売買契約を解除し、同二七年三月一七日、これを萩阪久子(以下「萩阪」という。)及び小林に売却し、翌一八日所有権移転登記を行つた。また、須藤は、同月二〇日萩阪及び小林から改めて本件分筆前従前地の借地権の設定を受け、同二八年七月一七日その旨の登記を経由し、借地権に基づき、当時の前記建物の所有者及び賃借人に対し本件分筆前従前地の明渡しを訴えた。その訴訟で、萩阪及び小林は須藤の補助参加人となつた。

(二)  右訴訟を契機として、前記建物の所有者又は賃借人であつた許禎祥及び梅田粂三郎は、昭和三二年一〇月二八日、萩阪から本件分筆前従前地に対する同人の持分(二分の一)全部を譲り受け、許禎祥は持分二三九八分の八三四、梅田粂三郎は持分二三九八分の三六五の共有者となつた。その後、同年一二月一二日に、許禎祥から原告松井に持分二三九八分の一〇〇が、梅田粂三郎から原告松井に持分二三九八分の一〇九、原告藤田に持分二三九八分の六五及び稲葉隆に持分二三九八分の五五がそれぞれ譲渡され、同三五年一二月一七日に、梅田粂三郎から松永モトに持分二三九八分の六八が譲渡され、同三七年一二月二一日に、稲葉隆から原告井口に持分二三九八分の二五及び井口劉一に持分二三九八分の三〇が譲渡され、同三九年四月二四日に井口劉一から株式会社ダイアナ靴店に持分二三九八分の三〇が譲渡され、この時点で本件分筆前従前地は小林及び原告ら共有者の共有となつた。その持分は次のとおりである。

共有者

持分

小林

二三九八分の一一九九

許禎祥

〃     七三四

梅田粂三郎

〃     六八

原告松井

〃     二〇九

原告藤田

〃     六五

松永モト

〃     六八

原告井口

〃     二五

株式会社ダイアナ靴店

〃     三〇

(三)  しかしながら、前記訴えで昭和三五年二月須藤の勝訴が確定したため、前記建物の所有者及び賃借人(持分権者兼建物所有者の原告松井、原告藤田、許禎祥、梅田粂三郎、稲葉隆、松永モト、建物所有者の井口劉一、建物賃借人の三名)は、須藤からの強制執行を免れるために、須藤との間で同三七年八月三一日付けで、前記建物の所有者及び賃借人は須藤に対し六四〇〇万円を支払うこと、須藤は小林を除く本件分筆前従前地の共有者の共有権上の賃借権を放棄し、土地明渡しの強制執行をしないこと、また、本件分筆前従前地が将来分割され、小林の単独所有の土地ができることがあつても、須藤は小林から設定を受けている借地権に基づき当該土地につき前記建物の所有者及び賃借人に対し土地明渡しの強制執行はしないこととの和解契約を締結し、同三八年七月までに右金員のほとんどを支払い、同三九年五月までに残りを支払つた。

(四)  本件換地予定地指定処分は、将来換地処分がされる場合に換地となるべき土地を換地予定地として指定したものであるところ、被告が昭和三四年一〇月二二日付けで本件換地予定地指定処分を取り消して、新たに本件仮換地指定処分をした(このことは当事者間に争いがない。)理由は、次のとおりである。すなわち、本件換地予定地と隣接換地予定地との境界上には私道が設置されることになつていたが、関係権利者から右私道部分を区画街路としてほしい旨の要望が出されたので、被告としてもその必要性を認め、両換地予定地から幅約二メートルの土地の提供を求め区画街路を設置することにしたためである。しかし、本件換地予定地から右区画街路に組み込まれる部分(別紙第一図の③の部分)を除外した残りの部分のみを仮換地としたのでは減歩率が五割を超え、池袋駅前付近の減歩率として予定されていた数値(三五ないし三六パーセント)をはるかに上回ることとなるため、被告は、区画街路に組み込まれる部分に相応する仮換地を追加して指定することにしたが、当時既に本件事業が進行しており、他の権利者に影響を及ぼすような仮換地指定の変更をすることは不可能であつたため、右区画街路に組み込まれる部分に相応する土地として東京都が所有する土地に対して指定されていた更地の換地予定地を充てることにした。かくして、被告は、本件仮換地指定処分により、本件分筆前従前地の仮換地として、本件換地予定地から区画街路に組み込まれる部分を除いた残りを本件仮換地(甲)として、東京都の換地予定地を本件仮換地(乙)及び(丙)として指定した。なお、被告は、須藤の借地権についても、右の仮換地を指定(権利指定)した。

そして、本件仮換地指定処分に伴い、昭和三八年八月ころ、前記(一)記載のほぼ本件換地予定地に相当する部分の土地上に存した建物を本件仮換地(甲)一杯に移築する工事が被告により行われた。この時点における建物所有者は、原告ら共有者のうち株式会社ダイアナ靴店を除く者と井口劉一であり、各建物の移築状況は、別紙第二図のとおりである。その後、同三九年四月二四日、井口劉一の建物が株式会社ダイアナ靴店に譲渡され、かくして、原告ら共有者による別紙第二図のような本件仮換地(甲)の占有が本件換地処分まで続いていた。そして、原告ら共有者は、右建物を店舗として使用し、生活の手段としていた。

(五)  小林は、昭和三八年に至り、共有物分割請求訴訟を提起し、主位的に本件仮換地(甲)の分割、予備的に本件分筆前従前地の分割を請求したところ、同四二年三月二五日言渡しの本件分割判決は、主位的請求については仮換地指定処分が従前地の共有持分権を仮換地に移行させるものではないから理由がないとして棄却し、予備的請求を認容し、本件分筆前従前地を東西に走る線(別紙第一図の点線)でほぼ二等分し、北側を原告ら共有者の共有とし、南側を小林の所有としたものであるが、本件分筆前従前地及びこれに対して指定された本件仮換地の利用状況等を考慮したものではなく、本件分筆前従前地の地積のみを考慮して、これを二等分したものであつた。

(六)  原告ら共有者は、前記共有物分割請求訴訟が提起された後、本件分割判決の言渡しの前後を通じて、被告に、本件分筆前従前地に関する従前の紛争の経緯及び換地の指定又は仮換地指定の変更についての原告ら共有者の希望、意見等について説明、陳情してきたところ、被告は、本件分割判決が言渡された後に原告ら共有者に東京都市計画復興土地区画整理事業施行規程二六条に規定する届出をするように指導したが、小林の同意、連署が得られないということであつたので、更に右届出をすることができない旨の理由書を提出するように指導したところ、原告ら共有者から昭和四二年八月一九日付けで東京都北部区画整理事務所長あてに従前地の共有物分割に伴う仮換地指定の変更について分割当事者間で合意ができないので特別の配慮をされたい旨の書面が提出された(右書面が提出されたことは、当事者間に争いがない。)。

(七)  昭和四二年九月三〇日、本件分割判決に伴う本件分筆前従前地の分筆登記がなされたが、被告は、特別処分の対象となる私道部分を特定するため、同四三年二月一五日、職権による分筆登記を行つた。その結果、本件分筆前従前地は、原告ら共有者の本件分筆後従前地(一)及び(四)、小林の本件分筆後従前地(二)及び(三)の四筆に分筆されることになつた。そして、被告は、同年五月一一日付けで、本件分筆後従前地(一)につき本件換地(甲)の(一)、(乙)の(一)及び(丙)の(一)、本件分筆後従前地(二)につき本件換地(甲)の(二)、(乙)の(二)及び(丙)の(二)をそれぞれ交付し、本件分筆後従前地(三)及び(四)については特別処分をする旨の本件換地処分を行つた(以上の本件換地の形状は別紙第三図及び第四図のとおりである。)。本件換地(甲)、(乙)及び(丙)の各(一)及び(二)は、本件仮換地(甲)、(乙)及び(丙)をそれぞれ二分したもので、本件換地(甲)の(一)と(甲)の(二)との境界線は、別紙第二図のとおり、原告藤田の建物を二分する形になつている。(以上の事実のうち、分筆登記及び本件換地処分のなされたこと及びその内容については当事者間に争いがない。)。以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二そこで、本件換地処分の適否について判断するに、原告らは、被告が仮換地指定変更処分を経ないで本件換地処分をしたのは違法であると主張するので、まず、手続的観点から本件換地処分の適否を検討する。

1 換地処分は換地計画に係る区域の全部について土地区画整理事業の工事が完了した後においてしなければならない(法一〇三条二項本文)。土地区画整理事業は、換地処分の方法をその本質的手法として、土地の区画形質の変更及び公共施設の新設変更を行う事業である。そして、換地処分は換地が従前地に照応することにより正当化され、土地区画整理事業は照応の原則(法八九条)によりその存在が許されるものであるが、換地処分は土地区画整理事業における最終的な処分であるから、それまでに位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等の照応が実現されていなければならない。すなわち、換地処分までに、土地の区画形質の変更及び公共施設の新設変更に関する工事を完了し、従前地上にある建築物等は換地となるべき土地に移転しておいて、換地処分と同時に、従前地と照応した換地を現実に使用し、換地において従前の利用状況を確保できるようにしておく必要があり、法一〇三条二項はこの趣旨を規定したものである。そして、換地処分前に照応の実現を図る手段が、法九八条の仮換地指定であり、仮換地指定を前提とした法八〇条の区画整理事業の工事及び法七七条の建築物等の移転除却である。

2 これを本件についてみるに、本件仮換地のうち、(乙)及び(丙)は更地であるが、(甲)は別紙第二図のように原告ら共有者がその全体を占有していた。本件換地処分は、これらの本件仮換地をそれぞれ二分して、その一を原告ら共有者に対する換地としたものであるが、このうち本件仮換地(甲)については別紙第二図及び第三図のように原告藤田の建物を二分する形で境界線を引き、東側を本件換地(甲)の(一)として原告ら共有者に交付し、西側を本件換地(甲)の(二)として小林に交付している。しかし、本件換地(甲)の(一)には他の共有者の建物が現存し、原告らとしてはこれを直ちに使用収益することができず、また、原告らの建物は本件換地(甲)の(二)に取り残されているから、原告らはこれを自己の負担で移転せざるをえず、移転完了まで、従前の利用状況を確保できない状態に置かれたものである。したがつて、本件換地処分は、土地区画整理事業の工事が完了し、従前地に照応した土地の現実の利用が可能になる前になされたもので、法一〇三条二項の規定に違反し、違法といわざるをえない。被告として仮換地に変更を加えるのであれば、まず仮換地指定の変更を行い、原告らの建物を新しく換地となるべき土地に移転し、換地処分と同時に原告らが換地を現実に利用できる状態にすべきであつたというべきである。

3 もつとも、被告が本件換地処分で仮換地を変更する内容の換地指定を行つた原因は、本件分筆前従前地について共有物分割がなされたことにある。したがつて、本件仮換地(甲)に存する建物につき移転、除却の工事を行わざるをえなくなつたとしても、それは区画整理事業によるものではなく、共有者間の共有物分割によるものであるから、区画整理事業を離れて原告ら及び小林を含む全共有者らがその負担で独自に行うべきであるといえなくもない。しかし、従前地の共有者間で従前地の分割を合意し、かつ、仮換地についても分割を合意した場合であればともかく、本件においては、判決による従前地の分割があり、共有者間で仮換地の分割について協議が調わない状態にあつたところ、被告がその裁量で一方的に各仮換地を二分割する形で換地指定を行つたものである。すなわち、いずれの土地を換地として交付するかは被告の裁量にゆだねられているところ、被告は原告ら共有者の建物が敷地一杯に建てられている本件仮換地(甲)をも二分割し、その一を原告ら共有者に対する換地とし、その一を小林に対する換地とすることにより、原告ら共有者をして右建物の移転、除却をせざるをえない状態に置いたものであるから、右建物の移転、除却は共有物分割に起因すると同時に土地区画整理事業にも起因するもので、区画整理事業の一環として被告の負担で行うべきものと解するのが相当である。また、かく解しなければ、照応の実現の保証がないのである。すなわち、換地処分がなされてしまうと、法七七条に規定する建築物等の移転、除却の強制権を発動してでも照応の実現を図るという途が閉され、換地をいかに利用するかは共有者が民法二五二条の規定に従い持分の価額の過半数で決することになるため、持分の過半数を有しない原告らとしては本件換地(甲)の(一)の利用から排除され、従前地に照応した換地を現実に利用できずに終わる可能性も存するのである。そして、前叙のような本件仮換地(甲)の使用及び共有物分割の経緯にかんがみれば、被告の負担で右建物の移転、除却を行うことを求めることが、原告らにとり権利の濫用に当たると解することもできない。

4 次に、原告ら共有者の建物は仮換地上に存したもので、従前地上に存するものではないから、たとえ仮換地指定の変更をしても法七七条の規定による移転、除却をできないのではないかとの疑問が存しないわけではない。しかし、仮換地指定の変更により旧仮換地上の建築物等の移転、除却が必要となつた場合も、法七七条の規定によることができると解すべきであり、仮に法七七条の規定を適用できないとしても、区画整理事業の一環として施行者の負担で換地処分までに移転、除却すべきことに変わりはないものというべきである。

5 ところで、原告らは、従前地そのものを利用していたのではなく、その仮換地たる本件仮換地(甲)を利用していたものであるが、仮換地の利用状況を換地上に実現する必要があるか否かも一つの問題といえる。この点につき、被告は、照応の一要素である利用状況は区画整理事業開始当時の利用状況であり、仮換地の利用状況を考慮すべきではないところ、原告らは本件分筆前従前地を利用したことがないから、本件換地処分で考慮すべき利用状況は具体的に存在しないと主張する。照応判断の際において、土地区画整理事業の実施によつてもたらさられた宅地利用の増進等の事情を考慮すべきでないという趣旨では、従前地の状況は土地区画整理事業開始の時を基準とすべきであるということができる。しかし、土地区画整理事業が開始されたからといつて、従前地の利用状況が凍結されるわけではなく、法七六条で建築行為等につき一定の制限を受けるだけであり、従前地の権利者(承継人を含む。)は、従前地はもとより、従前地の使用収益権が移行した換地予定地又は仮換地において利用関係に変更を加えることが可能であり、換地処分までにそこで適法に築かれた利用関係は、従前地の使用収益権に由来するものとして換地に承継されるべきである。区画整理事業の場合、事業開始から換地処分まで長期間を要するのが一般であるが、その間の利用関係の変化を無視することはいかにも不合理というべきであり、例えば、事業の途中で法七六条一項の許可を得て土地の形質の変更や建物の建築を行つた場合には、これらの事情は照応判断の考慮事由とし、換地に承継すべきである。本件換地処分当時、原告らは、従前地につき共有持分を有し、その仮換地たる本件仮換地(甲)を建物敷地として利用していたものである。そして、建物自体は、本件換地予定地指定処分前の昭和二三年に貸店舗として建てられ、本件仮換地指定処分後の昭和三八年に被告により本件仮換地(甲)に移築され、その間順次譲渡されて原告らの所有となつたものであり、土地区画整理法規に違反する等の事情もない。すなわち、原告らは、従前地につき共有持分を有し、その仮換地たる本件仮換地(甲)を建物敷地として適法に利用していたのであるから、原告ら又はその前主が本件事業開始当時に本件分筆前従前地に建物を所有していたか否かを問うことなく、右の利用関係は換地となるべき土地に移行させてこれを保護すべきものといわなければならない。しかるに、本件換地処分は、原告らの建物を小林に対する換地上に残置したもので、右利用状況を原告らに対する換地上で確保していないのであるから、違法といわざるをえない。

6 したがつて、本件換地処分は、法一〇三条二項の規定に違反し、違法というべきである。

三次に、原告ら共有者間の公平の観点から本件換地処分の適否を検討する。

1 本件換地(甲)の(一)が170.28平方メートル、同(乙)の(一)が134.14平方メートル、同(丙)の(一)が62.84平方メートルであること、本件換地(甲)の(一)が国電池袋駅西口前の場所に位置する商業地であること、昭和四五年度固定資産台帳の評価によれば、一平方メートル当たり、本件換地(甲)の(一)が約七〇万円、同(乙)の(一)が五万七〇〇〇円、同(丙)の(一)が約四万六〇〇〇円であることは、当事者間に争いがない。

そして、<証拠>によると、本件換地(甲)の(一)は池袋駅西口前広場に面した繁華街に位置し、南側が幅員一二メートル、東側及び北側が幅員四メートルの各道路によつて囲まれていること、本件換地(乙)の(一)及び(丙)の(一)は、同(甲)の(一)から南方直線距離で約五〇〇メートルの場所に位置し、付近には商店は極めて少なく、したがつて、商業地としての利用価値は同(甲)の(一)と比べるとかなり劣ること、本件換地(乙)の(一)は、北側で幅員一八メートルの道路に接し、間口八メートル、奥行16.61メートルの長方形をした土地であること、本件換地(丙)の(一)は、東側で幅員六メートルの道路に接しているが、別紙第四図のとおり間口が2.36メートルにすぎず、奥行が15.38メートルと深く、しかもそこで直角に曲つて更に約一三メートルある鍵形をした不整形な土地であること(間口が狭く、鍵形をした土地であることは、当事者間に争いがない。)が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右のように、本件換地(甲)の(一)は、商業地として極めて利用価値が高く、したがつて、地価も高い土地であるのに対し、本件換地(乙)の(一)及び(丙)の(一)は、同(甲)の(一)と比べると地価が一〇分の一以下であり、商業地としての利用価値もかなり劣る土地である。しかも、本件換地(丙)の(一)は、土地の形状の点から考えて宅地としての利用価値のほとんど認められない土地であるといわざるをえない。

2 したがつて、原告ら共有者が従前同様の商業を営むためには、本件換地(甲)の(一)、(乙)の(一)及び(丙)の(一)の三筆のうちの(甲)の(一)に頼らざるをえないことが明らかである。そして、本件換地(甲)の(一)をどのように利用するかは、原告ら共有者が民法二五二条の規定に従い持分の価額の過半数により決することになるが、本件換地(甲)の(一)には原告ら以外の共有者の建物が現存し、かつ、原告らの持分は過半数に達しないから、原告らが本件換地(甲)の(一)の現実の利用から排除される蓋然性が極めて高い。原告らとしては、本件換地(甲)の(一)の分割を求めることも可能であるが、その場合も狭小な土地しか入手できず、商業を営めずに、結局は換金せざるをえなくなる可能性が強い。また、原告らとしては、現実に利用できなくとも、持分に応じ、他の共有者が本件換地(甲)の(一)を利用することにより得る地代相当額の利得の配分を受けることができるが、換地処分を手法とする区画整理事業においては、換金や利得の配分により金銭的利益が得られることをもつてよしとすることはできない。本件仮換地(甲)における従来の利用状況に相応した宅地利用が本件換地(甲)の(一)においても原告ら共有者間で平等に実現されるのでなければ、公平な換地処分とはいい難いのである。しかるに、本件換地処分により、原告らの建物の存する部分が小林に対する換地とされ、他の共有者の建物の存する部分が原告ら共有者に対する換地とされ、その結果、原告らのみが本件換地(甲)の(一)の現実の利用から排除され、池袋駅前における店舗経営を断念せざるをえない蓋然性が極めて高い以上、本件換地処分は、公平の原則に反し、違法といわざるをえない。

四以上の次第であるから、本件換地処分は、二及び三の理由から違法であり、その余の点につき判断するまでもなく取消しを免れない。よつて、原告らの本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(泉徳治 大藤敏 杉山正己)

〔別紙〕

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